バクは中南米に3種のアメリカバクと東南アジアにマレーバクが分布している。
小さな可愛らしい目と長く突き出した鼻のひょうきんな顔立ちから、大人しい個体と見られがちだが、いざ敵と戦うことになるとイノシシの持つ牙のような鋭い犬歯が上下にあって、これを武器にするかなり恐ろしい動物である。
反面、元々湿地帯に生息していて足が弱く動物園のコンクリートのような堅い地面が苦手で、最近完成した多摩動物公園の新しいバク舎では、床にゴムの粒を一面に敷いて上から圧力をかけて接着したものにして貰ったくらいである。
 良く知られている、目覚めたとき見た夢を忘れているのはバクが夢を食べてしまうからだと言う説のように、昔から言い伝えも多く彼らは不思議な動物でもある。
バクの皮の上で寝ると流行り病、脚気、風邪をひかないとか魔除けになると江戸時代の書物に書かれていたり、マレーバクの後ろ半分が白い毛なのはお釈迦様が乗っていて、身体が黒く日に焼けたのに釈迦の衣で覆われていた所だけが白く焼け残ったのだという。だが考えてみると釈迦の国インドにはバクはいない。インドは古くから象が役使されていたから白象に乗った伝説と取り違えたのではないだろうか。
 このように得体の知れない漠然としている動物だから、その名もバクだと言うのだとすれば面白かったのだが、実際はもっと単純で、持ち前の丈夫な歯で草や木の葉枝をバクバクと食べるところから名付けられたそうである。折角のミステリアスの部分が薄れて誠につまらない。やっぱり僕はレンズを通して、せいぜい彼らに夢を食べられてしまわないよう、少し離れたところから見ていることにしよう。