僕の場合、動物たちに「こんにちわ」「さようなら」と挨拶することは当り前のことであり、写真を撮らせてもらっている者の礼儀だと思っている。だが、大きな声で話していると周囲の人が「この人、なんだろう?」と変な目で見たりして、正直言って最初は恥ずかしいこともあったが、近頃はあまり気にしないで適当にやっている。特に親しい連中の場合は声を出すまでもなく、手で合図したり目配せでお互いのやりとりが簡単に済んでしまう。
人間社会には、たてまえという便利なようで不便?なものがあるが、動物たちは全て本音で付き合ってくれる。ストレートにお互いの感情を伝えることが出来るというのは実に気持ちの良いことだ。
多摩動物園のグレビーシマウマのノバータは声をかけると必ず知らんぷりを決め込む。しかし彼の耳はちゃんとこちらに向いている。5年程前シマウマを集中的に撮っていたとき僕は殆ど毎日のようにノバータに会っていた。彼のご機嫌は日替わりメニューで、良い時は話しかけると近寄ってくるのは当然のこと、ヒューヒューと鼻息なのか、のどが鳴っているのか分らないが声を出して答えてくれるのだが、翌日はがらっと変わり僕のことを完全無視する有り様だ。又、彼のいる放飼場の手前から「ノバータ、ノバータ!」と呼びながら僕が近づいて行くと、柵の向こうから首を伸ばしてこちらを伺っているのが見える。ところが僕だとわかると、今度は放飼場の一番奥の方へ行ってわざと
気がついていない振りをするのだ。実に彼は気まぐれだが僕も同様、気まぐれに彼の気を引こうとしているのだから仕方がない。動物たちと常に友好的でありたいが、それはなかなか難しいことである。誰だって人と話したくない時や今日はほっといてくれと思うことがある。だから明らかに、こちらを無視したり拒否しているなと分れば僕は大抵
黙っていることにしている。だが、時には彼らと
思いっきりやりあうこともある。
ある日の午後、僕は井の頭自然文化園のコンゴウインコのケージ前で撮影をしていた。しばらくすると中の一羽が僕に向かってギャーギャーと大きな声でいちゃもんを付けて来た。何だか知らないが僕のことが気に入らないらしい。僕は妙にむかついてギャーと一声やり返した。するとケージの網に足をかけてばたばたと体をゆすりながら増々大きな声で応戦してきた。僕も段々くやしくなってギャーギャーを連発した。お互いむきになってやっていると、今度は他のインコたちも参戦してきた。ついに1対1の対戦が5対1になってしまった。僕はやや劣勢になった。ところがもっと不利になることが起きてしまった。それは僕たちの声を聞き付けて周りに人が集まってきたのである。これには僕もお手上げで仕方なく急いで三脚をたたんでその場をすごすごと退散することになった。普段は静かな動物園なのに僕の背後からはインコたちの勝ち誇った雄叫びがいつまでも聞こえていた。 |