名古屋の東山動物園は僕の好きな動物園の一つである。動物舎は決して広いほうではないが、
公園の様式の中に舎が点在していて、動物たちを観察する場所にも余裕があり写真も実に撮りやすい。植物園と一緒になっていて正式には東山動植物園という。だから季節ごとにいろいろの花が咲き、桜の頃の夕刻は動物園がいつまでも花で明るく閉園の時刻を忘れてしまうほどである。
だが、何故か僕が訪れるときは雨模様の天気になって、これまでからっと晴れた日は数えるほどしかなく大抵寒かったり突然土砂降りになったりして誠についていないのである。
その日も既に晩春だというのに底冷えのする寒い一日だった。動物たちも何となく活気がなく白熊とアシカだけは水の中で気持ち良さそうに泳いでいた。名古屋は犬山まで足をのばすと猿類専門のモンキーセンターがあるが、ここ東山でも猿系の展示は充実している。特に、僕は上野、千葉、京都と並んでゴリラを撮る目的でやって来る所でもある。今回も勿論ゴリラを撮影する予定にしていたのだが、何だかお隣にあるチンパンジーの舎が急に気になってしまった。
その理由は、大勢のチンパンジーたちが肩を寄せあって寒さをこらえている姿に僕は哀れを感じてとても引かれてしまったからだ。彼らはテレビニュースでも取り上げられ比較的最近だから覚えておられる方も多いと思うが、チンパンジーに鏡を見せたらどんな反応を示すかと、放飼場の壁に鏡を設置 して実験されてしまった?あのチンパンジー君たちである。
彼らを夢中で撮り続けていた僕は、ほとんど無意識の中で悪天候のため段々暗くなって来た光を補おうと、カメラにフラッシュライトを装着した。
次の瞬間、閃光がたまたまこちらを見ていた一頭の眼を直撃した。彼は両手で眼を覆い僕に背を向けると、時折振り返り指の間からこちらの様子を窺っている。悪いことをやってしまったと反省したが遅かった。それ以来彼は僕を覚えていて、カメラを構えると決してこちらを向いてくれない。僕は一生のあやまちを犯したと、このことを思い出すたびに胸が痛い。
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